政府から戦意高揚の国策映画づくりを映画界に要求されていた時代。 木下惠介(加瀬亮)が昭和19年に監督した「陸軍」は、その役割を果たしていないとして当局から睨まれ、次回作の製作が中止になってしまう。 夢を失った木下は松竹に辞表を提出、プロデューサーの城戸四郎(大杉漣)は木下に我慢をして残るよう説得するが、彼の決心は固かった。
彼は病気で倒れた母、たま(田中裕子)が療養している浜松市の気賀に向かった。 失意の中、惠介はたまに「これからは木下惠介から本名の木下正吉に戻る」と告げる。 しかし、戦局はいよいよ悪化の一途をたどり、浜松大空襲が起こり、気賀も安心の場所ではなくなってくる。
木下家は疎開することを決めるのだが、動けない母をどうするかということになった。 揺れのひどい思いをさせられない母を、正吉はリアカーに乗せ運ぶと言い出す。 しかし疎開先はなんと60㎞の先にあり、そこをリアカーを引っ張って移動するのは至難の業だった。
疎開先の鈴木家は勝坂にあり、その途中の気田からは森林鉄道に乗せる手はずとなっているが、峠を越えなくてはならない。 意を決して兄・敏三(ユースケ・サンタマリア)と、“便利屋さん”(濱田岳)と正吉の3人で、夜中の12時に気賀を出発し山越えをする。途中、激しい雨の中が降ってきた。
荷物の車を運んでいる便利屋は、頑丈な体で、口数も多いが、へこたれもしない。 逆に、正吉のきゃしゃな体を見て、ちょっとバカにしている感じでもあった。
ようやく雨も上がり、なんとか気田にたどり着くのだが、なかなか泊まる宿がない。疎開する客が多く満室だと断られてしまうし、リアカーに病人がいると言うとそれだけで煙たがられてしまう様だった。
正吉は、井戸を借り丁寧に母の顔を拭き、御髪を整えた。その丁寧な孝行の姿に、皆が感嘆の表情を見せるのだった。 しかしトロッコ列車が出るのは、明後日ということで、ここで2泊することになるのだった…
木下恵介監督作品を観てから、この作品を観ようと思っていましたが、いつになることやらと思い、鑑賞しました。 木下惠介生誕100年プロジェクトの一つということで製作されたこの作品、監督が終戦直前、思うような作品が作れなかった時代に憤慨し、一度監督を辞めるくだりから、思い直し復帰するまでの話ですね。
本土決戦を日本人皆覚悟した時代、その中で空襲から逃れるために、病気に倒れた母を何とか疎開先まで苦労して運ぶ姿がメーンです。
原恵一監督は、実写作品は今のところこの1作ですが、意外にふわっとした出来上がりで、扱っている題材を上手く抜きどころを作り、そして音楽も長閑さを前面に出したものを付けています。
心に染み入るところがいくつかあるんですね。 記事にも書いた、やっと見つけた宿に入るとき、母親を綺麗に整えるところは感動しますね。 母への孝行の気持ちが前面に出ています。
そしてなんといっても、戻る決心をするところですね。 必死の想いで手紙を書き、上手く話せない中、自分の心情を訴える姿、ここも大感動でした。短い作品ですが、ラストは監督の名作をずらっと紹介してくれます。
徐々に監督作品を観ねば、そう思わせられた作品でした。