長野県大鹿村、ここにちょっと変わった初老の男女がバスから下りてきた。 「治さん?貴子さん?帰って来たの?」 バスの運転手の越田一平(佐藤浩市)が問いかけると、人目を避けるようにそそくさと行ってしまった。
この村は300年間村人による歌舞伎が行われていた。 公演を五日後に控えたその日、村役場の会議室は、リニア新幹線の誘致をめぐってモメにモメていた。
観光の目玉になり、村が便利になるという者、いや自然破壊につながるという者、便利になれば若い人が帰って来る等々。 真っ二つに分かれた意見を引きずりながら、稽古に行くが、どうしてもわだかまりが消えずなかなか稽古が捗らない。
18年前のことだった。 妻・貴子(大楠道代)と幼なじみの治(岸部一徳)が駆け落ちしたのだった。 それからたった一人で 「ディア・イーター」 を営んでいるが、ここに来て働きたいと、都会からアルバイトに応募してきたワケありそうな青年・雷音(冨浦智嗣)が訪ねてきた。
ちょっと変わった男だったが、一応採用することとなる。
でもそこにとんでもないことが起こった。 なんと駆け落ちした二人が帰って来たのだった。 それだけでなく貴子は脳の疾患から認知症となっていたのだった。 貴子を持て余して帰ってきた治に対して、善は激怒し殴りかかるが、結局は二人を受け入れてしまう。 しかし貴子の症状ははんぱでは無かった。 公演も迫っており、どうする善?・・・・・
原田芳雄の最後の作品となった映画です。 原田自身はスクリーンの中ではとても躍動していて、とても公開後活動休止するとは思えないほどの熱演でした。
皆さんも映画公開直前の時の痛々しい姿は見たと思いますが、この映画では間違いなく輝いています。
また豪華キャストですよね。 まるで原田芳雄のために皆馳せ参じたと言えるほどでした。
ストーリー自体は地味な方ですが、これだけのキャストだと、各々の際立った演技力でグレードが何倍にも上がり、逆に村歌舞伎とは思えないほどのレベルの高い歌舞伎シーンでした。(まあ当たり前ですが)
93分という短い尺ですが、原田芳雄の思いがぎっしり詰まった映画で、濃密な作品でした。 みんな思いの詰まった演技でそれぞれ光っていますが、その中でも認知症を演じている大楠道代の演技は秀逸でした。 見事な作品だったと思います。

ひとりで店をやっている善




