2008年作品、作者:原田マハ。
円山歩は大手のデベロッパーに勤めていた。 キャリアウーマンの彼女が今マンションの管理人室にいた。 彼女の父、郷直が心筋梗塞で倒れ、心臓のバイパス手術をしたので、付き添いの母もいなくて留守番をするためだった。
母からはいろいろ注意書きがあり、会社勤めの娘の手を煩わせてしまった引け目もあるようで、事細かにメモがあり、さらに食事の用意もしている。 約1週間の代理だが、そんなに彼女は休めるのか?
実は歩は会社を退職したのだった。 彼女が勤めていたのは東京総合開発株式会社、大手の再開発企業だ。 そして彼女はついこの間まで、「アーバンピーク東京」という大プロジェクトを指揮していたのだっ た。
しかしそんな彼女に良からぬ、見に覚えのない公私混同の噂が立ち、プロジェクトから外されてしまい、彼女は退職を選んだのだった。 しかしこのことを両親はまだ知らない。
それは、言い出す暇が無かったこともあるが、両親にとって歩は一人娘であり、自慢の娘だったからだった。 結婚こそしていないが、一流企業に勤めるキャリアウーマン、両親にとっては鼻が高い存在だからだ。
そして、今入院している父・郷直は、無類のギャンブル好きだった。 入れ込むと抑えが利かない癖があり、のめり込んでしまい、いつも借金まみれ。 もちろん家計は火の車であり、母がいつもパートや内職で家計を支え、借金を返していたのだった。
そして入院している父はまた借金を作っていた。 300 万円、それはちょうど歩がもらった退職金と同じ額だった。
そんな父にもう一つの趣味があった。 それは映画を見ること。 父が足繁く通う館があった。 それは “テアトル銀幕” という名画座だった。 お見舞いに父のところに行くと、すぐに父が言ったのは 「いまテアトル銀幕にかかっている映画を教えてくれ。 テラシンによろしく言っといてくれ」 だった。 テラシンというのはそこの館主・寺田新太郎、父とはもう何十年との馴染みだった。
歩は新しい就職口を探さなければならない。 そしてこの家族にこれから思っても見ない展開が起こるのだった…
私もブロともさんの中で絶賛をされているという事で、購入、そして通勤途中に読み始めました。 もう前半からうるうる状態で困りました。 このおじさんは、何を読んで変な顔をしているんか? 不審者に思われていなかったか? だからいい作品を最近は通勤車内では読まなくなったっけ。
しかしもう遅い、逆に一番時間が取れて集中できるのもこの通勤電車、それも吊革につかまり立っている時が一番です。
これは、私ども、映画ブログをしている人のバイブルですね。 そして映画が好きな人の心情をよく表している。
原田マハという作家さんはあまりよく知りませんでした。 映画化された作品は、「カフーを待ちわびて」 「ランウェイ☆ビート」 「でーれーガールズ」と3本もあるんですが、どれも未見。 今度じっくり見てみたいです。 この作品は2008年に 「文藝春秋」 で発表され、
2011年に文庫化されました。
お話は、この後父の借金問題に母子が奔走します。 退院したら、また父はギャンブルに走ってしまう。 意を決していま無職になってしまったことを歩は父に言い切り、今後借金を自分の年金から返済していくことを言い、年金の管理も歩が行うまで進んで行きます。
でも優しいのはもう一つの “映画” は父から取り上げなかったことですね。
“キネマの神様”はそんな父と歩、もちろん母にもですが、そして大きな出会いをプレゼントしてくれます。
この作品は大きな映画愛で満たされている。 鑑賞済みの作品を中盤から父が自分の想いを伝えて行きますが、自分も鑑賞した作品では大きく頷けるところがいっぱいでした。
私もブログを読んでいただける方にはお分かりだと思いますが、私の感想は正直大甘なんです。 B級でも、トンパチ作品でも、短編でも、アニメでも、ホラーでも、スプラッターでも、基本映画の作り手はなぜこれを世に出したかったか、どこを見せたかったかを考えてしまうんですね。
もちろんそれがずれている時もあり、中には便乗だったり、露骨なパクリ、胡散臭さのある作品もあります。 それは大作でも見受けられ、不快に感じることもないわけではありません。
今作では、「DVDで見ればいいやと思える作品を、映画人は作るものか!」 という痛烈な映画賛歌を発しています。 映画を作るのはどんな作品でもそこそこお金はかかります。 セルフムービーで家族に見せるのでない限り、お金を払ってくれる人に見せるから。 だからそんな製作者の意図を少しでも汲んであげたいという記事にしているつもりなんですね。
私が思い入れをしたのは歩の父・ゴウですね、やっぱり。 批評家でなく、一映画を見たい人、映画を通じていろいろ感じたい人の領分を守っているからなんですね。
でも対極に、ローズ・バッドという強烈な存在がいて、彼はそんなゴウに鋭い突込みを入れます。 このやり取りが実に面白い。
しかし、よく読んでみると、このローズ・バッドも実に映画愛を起点とした鋭い突っ込み、批判をしている、ある意味“喝”を入れてくるんですね。
またもう一つ大きなテーマは、“名画座” です。 日本独特だったのは知りませんでしたが、この作品では、シネコンとの共存を求めています。 また名画座、シネコンを通じて、いかにスクリーンの前で映画を見るか、それがいかに尊いかを訴えかけて来るだけでなく、心を揺さぶりにかかるんですね。
いやーこれは素晴らしい映画愛の本でした。 ちょっぴり悲しいラスト部分でしたが、それも劇的な映画のよう、いつの日かこれが映画化になるのを大いに期待します。
ただハードルが高くなりそうですが(^^)
作中で取り上げられている作品のいくつか↓
そして、あれは、これか?